人事制度の改訂や、人事評価に関わる研修のご依頼を沢山頂いています。いくら素晴らしい戦略を描いても、それを実現できる人材や企業風土がなければ絵に描いた餅に終わります。そのため、人材や企業風土に大きな影響を与える人事制度に関心が高まるのは当たり前でもあります。しかし、人事制度は毎回ご支援しながらも悩ましいなと感じます。今日は人事制度に関わるお話です。
経営戦略がまずありき
人事制度とは、社員にどのように働いてほしいかを明示するものです。長く働いてもらいたいのか、ある一定期間に高いパフォーマンスを発揮してもらいたいのか、決められた範囲の仕事で成果をあげて欲しいのか。勿論、大企業になれば多様な事業、職種があるので、そんな単純な話ではありませんが、それでも方向性を示せないと人事制度は設計することができません。これは経営者がどのように未来を描き、どのように勝っていくかをイメージ出来ていることが大前提となります。ありたい姿がまずありきになります。ただありたい姿を描いた後に、現状を把握しなければなりません。ありたい姿と現状のギャップを埋めるのが人事制度の役割になります。そのため、良い人事制度を設計しようと思ったら、まずはありたい姿や戦略がありきになります。でも、意外にここが不明瞭な企業は多いように見えます。
人事制度だけを見ると見誤る
戦略の方向性が定まると人事制度設計がスタートします。しかし、ここで陥りがちなのが人事制度だけを見てしまうことです。人事制度を運用する人を視界から外してしまうことです。人事制度はロジカルに設計されますが、論理的には筋が通っていても、現場ではそんな運用できないなんてことは多くあります。シンプルな人事制度にすればするほど、実際の人事制度の運用が複雑になったりします。逆に複雑な人事制度にしても、現場実態に合わなくて機能しないなんてこともあります。
いまだに有効な人事制度は何か
職能給、職務給、役割給、どれも一長一短はあるのですが、最も時代遅れと考えられている職能給が実は最も機能する人事制度なのではないかと感じたりします。職能給は多くの場合、年功的に運用されることが多いです。そのため、働かないおじさん問題を引き起こす温床に繋がると考えられたり、若い人材を思いきって登用できない、給与が上がるまでの時間がかかるなどの問題を孕んでいます。しかし、そのようなデメリットを含めても職能給にはメリットがあります。それは、運用が楽だという点です。他の制度だと目標設定や評価や日々のマネジメントに(本来のマネジメントではなく、評価のために必要ないマネジメント)に時間を割かれたりします。その割には、メンバーのパフォーマンスやモチベーションが高まるわけでもなかったりします。また、製造業を中心に技術や技能の積み上げが、戦略上の重要な要素だったりします。だから、長く真面目にコツコツと働いてもらうというのは経営上も理にかなっているケースが多かったりします。 もちろんデメリットもあるので、そこを解決する方策とセットでの運用が必要です。経営側から見ると最大の懸念点は、パフォーマンスに対して人件費払い過ぎる問題です。そのデメリットを回避するには、管理職の登用をしっかり行うこと。登用だけでなく降格も含めて。また、役職定年制度を行うことです。そうすることで、職能給のデメリットめかなり解消できるし、何より人事制度運用に関わるコストが圧倒的に少なくてすみます。また、チャレンジグな登用が可能になるような複線型も一部改訂は必要でしょう。イレギュラーを扱える箱を用意しておけばいいだけです。そんな抜擢人事の対象になる社員は限られるでしょうし。
もちろん前述したように、どんな戦略を描くか、どんな働き方を社員に期待するかで人事制度設計は変わります。しかし、モノづくりに強みを持つ日本企業の多くでは、職能資格制度はいまだ相性の良い人事制度のようにも思います。