私の生業は企業の人材育成です。イメージしやすいのは、管理職研修や新入社員研修です。これまでに、人に教える時は時間配分とコンテンツの大切さについて書いてきました。ただこの二つだけでは、まだ効果的な学びに繋がりません。次に考えなくてはいけないのは教える順番になります。今日はそのお話です。
大人は学びたいことを自分で判断する
子供は素直ですから、つまらない授業でも一生懸命耳を傾けて吸収しようとしてくれます。大人も礼儀正しいから、例えつまらない研修でも席に着席して約束の時間まで受講してくれます。しかし、頭の中は別です。この内容はもっと聴きたいか、学びたいかは自身の経験や価値観から判断します。つまり、いくら有益な内容であったとしても、一度、心のシャッターが閉店ガラガラしてしまうと、情報は右から左へ受け流される一方です。時間配分を工夫しようとも、優れたコンテンツを準備しようともです。そのため、伝える順番が大事になります。
経験→気づき→理論の順番
では、どんな順番かというと「経験」「気づき」「理論」の順番が原則です。この辺りが教える時のややこしいところです。社内で報告や説明をする時は、まず結論から伝えるのが原則です。そのため、ビジネスパーソンが人に何かを教える時も、結論である理論から伝えがちです。実際、話を聞いている方も理解しやすいです。しかし、ここで勘違いしてはいけないのは「説明する」と「教える」は似て非なるという点です。これは先生から生徒へ一方的に説明するという、学校での授業経験も影響していると思います。忘れてはいけないのは、学習の主体者は受講者であることです。講師が流暢に説明しても、受講者が習得できなければ意味がありません。
このような事態を回避するためには、まずは受講者に経験させ、気づかせるというステップが必要です。この知識、スキルは自分にとって有用だと感じてもらうような準備が必要なわけです。例えば経験してもらうであれば、取り扱うテーマに関して意見交換をしてもらうとか。これは、受講者がすでに保有している経験や知識を生かすやり方です。それ以外にも問題を解いてもらったり、キーワードを予想して貰ったりするなどの方法があります。このようにワンクッションかますだけでも、受取り方は全く異なってきます。
理論から入った場合がよいケース
ほとんどのテーマは経験から入ることをお勧めしますが、例外も当然あります。
- 知識、経験がないもの
- 危険を伴うもの
受講者に全く経験や知識がないテーマの場合は、理論から始めなくてはいけません。例えば新任管理職研修の場合、受講者は管理職の経験がないのですから、経験は使える範囲が限定されます。また、スキル系特に固有技術に関しては、予備知識なしで経験させたら事故に繋がるものもあります。どちらにしろ、事前に受講者分析をしてから順番を組み立てることになります。
順番一つ工夫するだけで効果が全くことなるのが学びの世界の面白さでもあります。