今回、ご紹介するのはチャールズ・A・オライリー教授によって書かれた「両利きの経営」です。昨年のビジネス本大賞の特別賞も受賞しています。経営者の多くがこの本を読まれているように思います。昨年、Zoomでのお客様との打ち合わせの際によく話題に上がっていたような印象です。実際にイノベーションに関する良書です。
両利きの経営とは
分厚い本ですが、主張は単純明快です。イノベーションを起こすためには、既存事業を深めていく「深化」と、新規事業を探していく「探索」の両方をやらなくてはいけませんよと言っているだけです。もちろん、様々な企業事例をエビデンスとして紹介しています。
組織の作り方
この本の特徴の一つは、新規事業の組織の作り方についてです。既存事業の深化と新規事業の探索を同時に社内で進めることは難しいので、新規事業は別組織で行ったほうが望ましいというのがこれまでの定説でした。しかし、オライリー先生は同一組織で両方やった方が良いと主張します。何故なら別組織にすると必要なリソースに届かない場合が出てくるためとしています。
最後はリーダーシップが問われる
ただ、両利きの経営を進めるには高度なマネジメントが求められます。既存事業と新規事業では矛盾した意思決定が求められることがあるからです。そこで、この本の最終的な結論は、経営者や経営幹部のリーダーシップが両利きの経営には求められると喝破します。
私の感想
コンサルタントの立場として、クライアントの新規事業や新商品開発の支援を私はしてきました。また、自社の新規事業や新商品開発も担当しています。そこで毎回感じるのは、既存事業と新規事業の間には深い谷の存在です。モノの見方、考え方は既存事業村と新規事業村の住民では全く異なります。既存事業で稼いでいる時に、次の飯の種である新規事業を探索し発展させることには誰もが賛成します。しかし、リソースの配分や評価の各論に入ると対立が発生します。既存事業の歴史と実績があればあるほど、大企業になればなるほどその傾向は強くなります。
また、もう一つ私が感じているのは、リーダーシップが発揮できる経営者の不在以上に、番頭役のNO2の不在です。日本企業の歴史を紐解くと、Hondaの本田宗一郎と藤澤武夫、SONYの井深大と盛田昭夫のような経営チームが存在していました。リーダーシップやイノベーションが重要と言うのは、多くの経営者が理解し意識しています。でも、大企業になればなるほどリーダー1人では限界があります。前述したように、既存事業と新規事業は矛盾と対立を内包しているわけですから。そこのバランスをとれる経営幹部が圧倒的に少なくなっているように感じています。まあ、自分の周りにどんな役員を配置できているかも含めて経営者のリーダーシップなんですが。話が大幅に脱線しましたが、イノベーションについて考える際に、とても多くの示唆を与えてくれる一冊です。ビジネスパーソンは読んでおいて損がない良書です。