前回の記事で、ビジネスにおける「対立」について説明しました。感情的対立は百害あって一利なしだが、タスクやプロセスの対立は悪い面だけではなくむしろ良い面もあると書きました。とはいえ当事者になると対立はやはり面倒であることには変わりありません。なぜなら、からならず交渉というプロセスが入るからです。今日はこの交渉について考えてみたいと思います。
交渉は管理職の重要なタスク
マギル大学のヘンリー・ミンツバーグ先生は、「マネジャーの実像」という著書で、「交渉者としての役割こそが、マネジャーの仕事の最も重要な部分だ」と主張しています。これは、ミンツバーグ先生が実際のマネジャーに密着取材したところ、計画とか分析なんて仕事の時間はほとんどなく、実際は上司、部下、他部門などの、ちょこちょことした交渉や調整の大部分に時間を割いていたことで判明しました。現在はこの交渉の範囲は社内にとどまらず、社外まで広がっているように見えます。管理職は大変な時代です。
交渉における6つの落とし穴
交渉には代表的な6つの落とし穴があると考えられています。
- 不合理なこだわり
- 分け前の総量に関する固定観念
- 些細な情報へのこだわり
- 手に入れやすい情報
- 勝者の呪縛
- 自信過剰
不合理なこだわり
不合理なこだわりとは、過去の自分の選択の仕方に引きずられて、例えそのやり方が合理的でなかったとしても、そのやり方に囚われてしまうことです。例えば過去、多額なお金を突っ込んで自分の欲しいものを手に入れた経験があったとします。その成功体験に囚われて、例えば企業買収のときに必要以上な金額を積んでしまい交渉から降りられなくなってしまうとかです。企業買収まではいかなくても、交渉を成立するために必要以上の金額を突っ込んでしまうケースはあるように思います。
分け前に総量に関する固定観念
例えば総額の取り分が100万円だったします。それを2人で分け合うとします。仲の良い友人同士であれば50万づつねと綺麗に分配できるかもしれませんが、ビジネスになると70対30とか、いやいや60対40とか取り分で揉めることも珍しくありません。そんなときに、分け前の前提の100万が変わらないという固定観念に囚われると交渉は厳しいです。例えば、今回は100のうち20をさらに投資に回すことで利益を130にしてから再度分配するなんてこともできるかもしれません。
些細な情報へのこだわり
これはアンカリングとか呼ばれます。例えば中古車の値引きをする交渉の際、売り手はその中古車の価値を50万と査定していたとします。しかし、店頭におかれた中古車のボードには70万円のプライス札を貼っておきます。すると、そのプライス札を見た買い手は交渉を60万から買い手が交渉をスタートするようなことです。70万という数字には根拠がないですが、にもかかわらず交渉に影響を与えます。このように本筋とは関係のない枝葉のような情報に引っ張られて、思考の幅が狭くなったり謝った判断をしてしまったりすることも少なくありません。
手に入れやすい情報に影響を受ける
人は重視すべき情報と、簡単に手に入る関係ない情報とを混同し、後者を重視してしまう事がしばしばあります。例えば、頻繁に会う人がポジティブな印象を残すと、「あの人は頑張ってくれるから」「あの人は信頼できるから」とラベル付します。すると、そんな相手が胡散臭、話を持ってきても信頼してしまったりします。古典的な詐欺師の手法ですね。
勝者の呪縛
交渉の末、有利な条件を引き出したのに、いざ契約を結ぶ段になると「自分は本当にこの内容で契約してもいいのだろうか?」と疑心暗鬼に陥ることです。これは自分よりも相手の方が情報を持っていることに起因します。だからこそ、交渉時にはできるだけ多くの情報を収集することが重要になってきます。
自信過剰
これは思い込みのことです。自分の判断や自信の正しさについて根拠のない自信を持つというやつです。結果に対する期待が、いつの間にか「根拠」にすりかわってしまいます。防ぐためには複数のメンバーで検討するとか、第3者に助言を求めるなどが必要です。
交渉の6つの代表的な落とし穴について書いてきましたが、みなさんお気づきですよね。交渉の失敗の原因の多くは、自分自身に起因していることが多いんです。交渉でお金とか条件が絡むと、冷静に考えられなくなります。だから、交渉するときはいかに冷静でいられるかが最も重要だともいえます。