私の生業は企業の人材育成支援です。イメージしやすいのは、企業で実施される管理職研修や新入社員研修の企画運営です。私が提供している研修は受講者と講師の双方向を大切にして、講師の話は極力少ないように設計しています。その方が、研修の目的である受講者自身の気づきを促しやすかったり、ひいては行動変容にも繋がりやすいからです。一方、講師が話す際は、受講者にインパクトが残るような話し方を意識しています。今日はそのノウハウをお伝えします。
研修講師は演芸のような側面もある
研修講師は不特定多数の受講者に対して講義を実施します。経験を重ねれば重ねるほど、講義というのは演芸に近いようにも考えます。講義の内容が素晴しくても、受講者に届かなければ1ミリも意味がないわけですから。そして届けるためには熱意と技の両方が必要です。何か伝えよう、説得しようと思ったら、話し手の熱量は大前提です。技だけで対処しようとしたら、簡単に受講者に見透かされます。また、研修受講者の多くは、会社からの指示を受けて研修に参加しています。つまり、自主的に参加している訳ではありません。どちらか言えば仕方なく参加しているので、話し手の熱量が伝わらないと、あっという間に離脱してしまいます。熱量は話し手の気持ちもあるし、声量や表情姿勢といった形で表出されます。
断定と疑問と独り言
短い内容、短い時間であれば熱量だけでも相手を説得できるかもしれませんが、長時間はそれだけでは持ちません。プロとしての話術も必要です。それが、「断定」と「疑問」と「独り言」の組み合わせです。研修講師として話をする際は、「〰️だと思う」「◯◯だと自分は考える」という表現は敢えて使いません。「思う」「考える」を使うと、聞き手からするとエクスキューズしているように聞こえるからです。それだけで、この内容は聴くべき価値があるのだろうか?と疑問が湧いてしまいます。だから敢えて断定口調で伝えます。断定口調で伝えるには、内容に対する深い理解と自分の考えを持っていることが大前提です。つまり、それなりに準備はしておかなければ成立しません。
また、私が教えいるのはビジネスです。マネジメントやリーダーシップに代表されるように、絶対の正解がない世界でもあります。なので、私が話した内容と違う世界線があるのも当然だと考えています。その程度に考えているので、断定して話すことに迷いはありません。自分が話す内容が正しいかどうかが気になったら断定とか出来ません。逆に自分の考えがしっかりあるから、訂正も譲歩も可能になります。考えをしっかり持ってていないと、誤魔化したり、取り繕うとしたり、相手の考えを否定しようとしてしまいます。
そんな考えがあるから、講義する際は断定的な物言いをします。ただ全ての事を知ってる、理解出来ているわけではありません。そのような話題に関しては断定は出来ないので、「◯◯かもしれない」と疑問を投げかけます。または、自分でも判断に迷うような話題に関しては「いやちょっと、それは私も分からないところだよな」と呟きます。この断定と疑問と独り言を組み合わせることで話にリズムが生まれます。リズムが合ってくると、聞き手は「そうそう」「自分も似たような経験がある」というような気持ちになります。そんな風になると、自然と私の話した内容を理解賛同してくれるようになります。もちろん、理解賛同してくれる内容は聞き手によって様々です。聞き手の経験や価値観は違うので、刺さるポイントも違います。面白いのは、こちらが刺さって欲しいワードに刺さる場合もあれば、全く予期せねワードが刺さるケースもある点。同じ内容を話しても受講者によって反応が違うのは研修講師の面白さでもあり、難しいさでもあります。