前回は、研修評価に大きな影響を与えたカートパトリック先生の四段階理論について解説しました。シンプルでパワフルな理論のため、研修に携わる人々に大きな影響を与えたました。しかし、それだけ影響力を持つ一方で検証されたことがないという心許ない理論であることをお伝えしました。今日は現在の研修評価にまつわる潮流についてサクッと解説したいと思います。前回に引き続きマニアックな記事ですがお付き合い頂ければ幸いです。
研修評価とROI
1990年代に入ると研修評価はROI(投資対効果)が問われるようになります。企業のグローバル競争が益々激しくなり、株主からの圧力もその背景にありました。「人材開発にお金を投資して、どれでか儲かるんだ?!」という問いに対して、企業の人材開発や研究者は答えなくてはいけなくなりました。しかし残念ながら、研修効果とROIの因果関係を結びつける試みはうまくいきませんでした。あまりにも変数が多すぎて、研修とROIを結びつけるのは無理がありすぎました。
4段階モデルの研究が進む
前回の記事でご紹介したカートパトリック先生が提唱した「研修評価の4段階モデル」はシンプルな分かりやすさと、研修に携わる関係者がなんとなく「そうそう」「あるある」と納得してしまう力強さで瞬く間に普及しました。しかし、その一方で様々な問題を内包したモデルでした。何より何一つ検証されてつくられた理論ではありませんでした。
学者さんは偉いもので、その理論の矛盾に早くから気づき実務的なモデルの提唱が始まったのが2000年代です。そしてその研究は現在進行形で続いています。私の同僚が参加した今年度のATDというアメリカで開催される人材開発のイベントでは、カートパトリック先生の息子さんが新しい研修評価のモデルを講演されていたそうです。歴史は紡がられるということでしょうか。「研修評価の4段階モデル」は矛盾のある理論ですが、カートパトリック先生が主張したからこそ賛否が沸き起こり研究は進みました。どんな分野でも最初の言い出しっぺは逆風にさらされます。でもそんな人々がいたから私たちの世界は少しづつ良くなっていくのだと思います。
研修転移という考えかた
研修評価と表裏一体で研究が進んだのが、「研修転移」という考えです。研修転移とは「研修で学んだことを職場・現場で活かし成果をあげること」です。そして研修転移で重要な要素は3つだと考えれています。
- 受講者
- 研修
- 職場
それぞれにどう働きかけていくかが研修転移に繋がります。裏を返せば研修効果を測るためにはこの3点を見なければ、何一つ評価できないということでもあります。