ロシアW杯終了しましたね。今大会は全体的に面白い試合が多かったように感じます。そんな大会で存在感を出せたチームの一つが、我らが日本代表。大会前は全く期待していなかったのですが、掌返しでごめんなさい!しかし、今大会の日本代表はリーダーシップの側面、チームビルディングの側面からみてもとても興味深い組織のように私には映りました。戦術的な視点や技術的な視点での解説はその道のプロに任せるとして、リーダーシップや組織論の視点で考えてみたいと思います。
チームになるための3要素
組織論ではチームになるには3条件が必要と考えられています。第1に目的、第2に貢献意欲、第3に円滑なコミュニケーション。ハリルホジッチ解任前から、第1の目的については首尾一貫していました。目的は「グループリーグ突破」です。普通の組織であれば、責任者が解任ともなると目的自体が迷走するケースがほとんどです。しかし、W杯であったからこそ目的が明確であったことは組織作りの視点ではアドバンテージでした。
西野監督と心理的安全地帯
西野監督が就任した時、私は駄目だと感じました。何故なら、自分の目指すサッカーを自分の言葉で分かりやすく話せていなかったからです。W杯直前の指揮官の交代はチームに混乱をもたらします。そんな混乱期には強いリーダーシップが求められます。混乱するチームをまとめるのは、リーダーの言葉が何よりも大切になると私には思えたからです。
しかし、ここで私は二つの点を見誤りました。第1に選手の成熟度、第2に西野監督のキャラクターです。
危機感と選手ひとり一人のリーダーシップ
監督が交代された時、日本の世論の論調は「ロシアW杯の日本代表は失敗する」でした。この危機感が選手ひとり一人の主体性を促したように思います。危機感や不安は学習論においては大切だと考えられています。危機感や不安が行動を促す発火点になるからです。ただし、日本代表選手が成熟していたからこそ乗り越えられたのだと考えます。平均年齢が高かったのがプラスに働きました。また選手を大幅に変更しなかったのも吉とでました。選手構成も変わっていたら、また1から信頼関係を構築しなくてはならなかったはずです。基本的な人間関係があったので、どうやって問題を解決するかに選手が集中できたように思います。
また西野監督の「会話」を大切にするキャラクターもプラスに働いたように思います。西野監督が強いリーダーシップを持って、しっかりとした戦略を持っていたら、選手達は一方的にそれに従っていたと思います。幸か不幸か、そんな強いリーダーシップを持っていなかったから、西野監督が選手の話を聞いてくれる人だから、選手間の対話がさらに促進されたように思います。選手が「西野監督のチームでは思っていることを自由に話していいんだ、俺たちがやらなきゃチームは惨敗する」という心理的安心と健全な危機感がプラスに働いたように考えます。まさに選手ひとり一人がリーダーシップを発揮している状態だったのだと推察します。
対話の重要性
日本代表のロシアW杯での活躍は、人材育成や組織開発を生業としている私に、とても大きなヒントを与えてくれました。それは健全な対話の必要性です。日本の組織の多くはピラミッド型の階層組織です。ピラミッド型の組織は、より上位の階層の役割を担うリーダーが優秀であることが重要になります。そして、メンバーは多くの役割をリーダーに期待します。しかし、そんな完璧なリーダーは滅多に存在しません。誤解を恐れずに申し上げれば、西野監督も人材のスペックとしては決してスーパーな人材ではなかったと思います。しかし、結果を見れば混乱したチームを見事ベスト16まで引き上げ、ベルギー戦も素晴らしい戦いぶりでした。これは素晴らしいリーダーでなくても、リーダーシップを発揮できるという証です。組織を構成するメンバーに働きかけることで、ひとり一人に主体性を持たせ、対話を促進し、自分の長所を組織に落とし込むことで、大きな偉業を達成できる。ある種、日本人の得意とする戦い方をこのチームは体現してくれたように思います。