前回の記事でクラウゼウィッツの戦争論を紹介しました。この本が書かれたのは1832年。たかだか約200年前のお話です。東洋には2500年前に戦略について書かれた「孫子」があります。今回は「孫子」から戦略について考えてみたいと思います。
目次
「孫子」は戦いを避けることを第一義に考えた
クラウゼウィッツの「戦争論」が打倒フランス、打倒ナポレオンを考えて書かれたのは前回の記事で解説しました。「孫子」は対照的で、いかに戦争を避けるかの視点で書かれています。これは、作者の孫武が、「負けたら終わり」という戦争観を持っていた為です。だから、戦争になった際も「最悪負けなければいい」と考えていました。負けなければ明日があるということです。
亡国は以ってまた存すべからず、死者は以ってまた生くべからず
「国は滅んでしまえばおしまいであり、人は死んでしまえば二度と生き返らない」
「孫子」が生み出された時代背景
孫子が生まれた時代の中華は春秋戦国時代。小国が覇権を争う時代でした。ある国との戦争に例え勝利したとしても、国力が著しく衰えているときに別の国に攻められたら滅んでしまう。そんな時代背景からも、「孫子」は戦いを避けることを前提として書かれてきました。
百戦百勝は善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するものは善の善なるものなり
「百戦百勝が最善の策とはいわない。戦わないで敵を屈服させることが最善なのだ」
戦いの基本要素 五事
「孫子」では戦いの基本要素を5つと定めています。この5つの基本要素を考慮しなさいといっています。面白いのは戦術、戦略のたぐいのことは全くいっていない点です。組織の目的や戦略を実現する実行力について言及している点です。
- 道:組織の理念
- 天:ものごとを行うタイミング
- 地:地形の有利不利
- 将:将軍の力量
- 法:組織の統制
戦うか否かを決める 七計
ライバルとの優劣を決める視点として7つあげています。ここでも兵器や戦術には言及していません。組織力やリーダー、兵士について述べています。
- 理念が末端の兵隊までどこまで浸透しているか?
- 将軍はどちらが有能であるか?
- 天の時と地の利はどちらに有利であるか?
- どちらの組織のほうが規律がとれているか?
- 軍隊はどちらが強力であるか?
- 兵はどちらがより訓練されているか?
- 賞罰はどちらが、より公正に行われているか?
勝てなくても不敗でいることは可能だ!
勝つべからずは己に在るも、勝つべきは敵にあり
「不敗の態勢をつくれるかどうかは自軍の努力次第によるが、勝機を見出せるかどうかは敵の態勢いかんにかかっている」ビジネスの世界では勝利が求められます。勝利=業績ですね。株主からは短期の業績のプレッシャーは半端ないですよね。「孫子」の考え方がすごいのは、「勝てなくても負けなきゃいいじゃん!そしたら相手が勝手にコケてくれた時に勝てるさ!」って言っているところです。勝ち組と負け組とかいう言葉もありますが「孫子」を読むとどうでもいいと思えます。
戦い方についても書かれている
前述したように、「孫子」は戦争に勝つための前提条件、経営用語でいうとCapability(
ケイパビリティ)について言及するだけでなく、勝つための戦略についても数多く記載されているのが特徴です。
兵は拙速を聞くも、いまだ功の久しきをみざるなる
「短期決戦に出て成功した例を聞いても、長期戦に持ち込んで成功した例は聞かない」
孫子は奥が深い兵法書です。企業経営だけでなく、ビジネスパーソンが会社で生き残っていく上でも様々は示唆をあたえてくれる良書です。今は漫画で学ぶような本もあるので、1度は手にとって読んでみることをお勧めします。